1.振動とはここで取り上げる振動とは、建物の全体または一部の床が揺れ動くことをいう。振動の方向により、鉛直振動と水平振動に分けられる。 また、振動はその発生原因により、交通振動、機械振動、歩行振動、自然発生的な風などによる振動に分けられる。(参考1)(地面は交通機関や風などの影響を受け常に振動している:常時微動) 交通振動は、例えば近隣の道路を通過する自動車による振動や、線路を通過する電車による振動、近隣に空港がある場合の飛行機の滑走による振動である。 機械振動は、近くにある機械のモーター等による振動である。 歩行振動は、人が建物内部を歩行することにより生じる振動であり、主に床の面外の剛性不足等により引き起こされる鉛直振動である。 自然発生的な風などによる振動は、建物に外力として作用する主として水平力によって生じる振動である。 交通振動も機械振動もその原因がはっきり特定できること、さらに、交通振動は立地により影響される特殊なものであること、機械振動は大きな振動を発生させる機械自体を取り替えたり、機械の周りに防振措置を施すなど(設備における防振設計)により比較的容易に対処可能である。 また、適切な設計・施工が行われていても、常時微動は発生するものである。 ここでは、歩行振動(鉛直振動)および自然発生的に風により生じる振動(水平振動)を対象とする。(「水平振動」は各構造の調査方法編を参照のこと) |
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2.評価一定以上の振動による障害には次の3通りの形態がある。まず一つは建物の部材に破損などの耐力上の障害が生じること、二つめは機械装置類に機能上の障害が現れること、そして三つめは、居住性の悪化など人体に感覚上の障害を引き起こすことである。 前二つの障害は、対象物の振動特性、強度などを検討して、工学的判断から評価することが可能である。しかし、三つめの障害には個人の感覚の指標が入るため、物理的なデータのみで振動を評価しても、心理的要素や個人差を考慮できないために正確な評価とはなりにくく、汎用的に振動障害を評価し得る指標を定めることが困難である。(参考2) とはいえ、居住性の悪化などを感じる境界線がどこかにあるのは事実であるため、多くの研究がなされている。(参考3) 振動感覚評価の研究によると、振動感覚の影響要因としては、以下の6つの要素があげられている。(参考4)
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振動の評価規準には、日本建築学会の居住性能評価規準(参考5)がある。居住性能の評価方法として、「定常的な振動」と「非定常的な振動」に分けて扱われている。当規準では、 「転載の承諾を得られなかった箇所に網掛けをしております。」 (引用1) |
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表1 鉛直振動の評価レベルの説明(引用3)
「転載の承諾を得られなかった箇所に網掛けをしております。」 |
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「転載の承諾を得られなかった箇所に網掛けをしております。」 図2 定常的な水平振動に関する性能評価図(引用4) 表2 定常的な水平振動の評価レベルの説明(引用5)
「転載の承諾を得られなかった箇所に網掛けをしております。」 「転載の承諾を得られなかった箇所に網掛けをしております。」 |
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「転載の承諾を得られなかった箇所に網掛けをしております。」 図3 A*/AとTの関係(引用8) |
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「転載の承諾を得られなかった箇所に網掛けをしております。」 図4 非定常的な水平振動に関する性能評価図(引用9) |
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3.構造種別による傾向振動を示す指標には、建物の振動特性を表す固有周期、固有モード(固有振動形)および減衰定数がある。(参考9)固有周期と固有モードは、建物の重量(質量)と剛性から決まり、剛性の低い建物ほど振動しやすく、さらに自重に対する外力の比が大きくなるほど、振動しやすい。従って、質量が大きく剛性の高い鉄筋コンクリート造の住宅の振動問題は少なく、軽量で比較的剛性の低い木造や鉄骨造の住宅は振動問題が起こりやすい。 また、減衰定数は減衰力の大きさを表す定数であり、減衰力の大きさは変形速度に比例するため、木造軸組工法のようにいくつかの部材の組み合わせで構成された構造の場合には、各接合部などで減衰力が働き、床振動の減衰定数は比較的大きな値となる。 |
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