１．外壁の傾斜とは

外壁の傾斜とは、外壁が鉛直面に対していずれかの方向へ傾いていることをいう。 外壁の傾斜（chord作成） 　　※外壁の傾斜は上記図に示す「傾斜角θ＝ｄ／Ｈ」で表す。 外壁の傾斜には、面外方向への傾斜と面内方向への傾斜がある。 外壁の傾斜が発生した場合は、住宅全体の傾斜等の可能性の有無を確認するために、傾斜方向に注意し、構造耐力上主要な耐力壁を含め、建物全体が同一方向へ傾斜しているかまたは部分的に壁面が傾斜しているかを確認する。 内壁と外壁の変形状況が異なる場合(例えば内壁は傾斜していない場合等)は、壁枠組（※）は傾斜しておらず、仕上材のみが傾斜している可能性が高い。 外壁の傾斜方向（chord作成） ※ 壁枠組：下枠、たて枠、上枠、まぐさ、面材等から構成される壁体

２．発生原因

（１）

適切な設計・施工でも通常起こり得る軽微な傾斜
適切な設計・施工が行われていても、施工誤差等による軽微な傾斜は発生することがある。

（２）

基礎の沈下
基礎が何らかの理由で沈下した場合は、これに連動して外壁の傾斜が発生することがある。（基礎の沈下の発生原因は［基礎の沈下］を参照）

（３）

不適切な壁枠組の設計
壁枠組の設計段階において、以下の事項に不適切な点がある場合には、外壁の傾斜の発生につながることがある。

①

壁枠組の断面寸法等（たて枠、上下枠、まぐさ等）

②

材料の選択

③

壁枠組の配置・支持間隔（たて枠の間隔、まぐさの支持間隔）

④

壁枠組の架構・接合方法

⑤

耐力壁量・配置（平面計画、開口計画、壁倍率設定）

⑥

水平構面の剛性確保の仕様（床枠組・小屋組と床下張材の止め方）

（４）

不適切な壁枠組の施工等
木工事の段階において、以下の事項に不適切な点がある場合には、外壁の傾斜の発生につながることがある。
（材料）

①

壁枠組の断面寸法等（たて枠、上下枠、まぐさ等）

②

材料の選択

③

材料の品質

（施工）

④

壁枠組の配置・支持間隔

⑤

壁枠組の架構・接合方法

⑥

耐力壁量・配置

⑦

水平構面の剛性確保の仕様

⑧

壁の建て入れ

（５）

不適切な仕上材等（※）の施工等
外壁仕上工事の段階において、以下の事項に不適切な点がある場合には、外壁の傾斜の発生につながることがある。
（材料）

①

仕上材等の選択

②

仕上材等の品質

（施工）

③

仕上材等の施工（取付け）

④

壁内断熱材等の施工（断熱材および防湿層の配置等）

※

仕上材等：外壁仕上材、下地材、留め付け材

• 適切に設計・施工された住宅であっても、軽微な外壁の傾斜は発生することがある。
• 傾斜角を測定し、発生している傾斜の程度を確認する。

• 測定された傾斜角については、施工精度や基礎の沈下の程度等に係る資料を参考にして、不具合事象の程度の大きさを判断する必要がある。
• 傾斜角が大きい場合は、基礎の沈下や壁枠組の変形等に起因する可能性がある。
• 傾斜角が小さく、かつ他の不具合事象が確認されない場合は、適切な設計・施工が行われていても発生することがある軽度の傾斜である可能性がある。

• 下げ振り（垂球）　
• 下げ振り（ダイヤル表示・デジタル表示）
• レーザーレベルまたはレーザープレーナー
• スケール

• 外壁の室内側の壁が、当該外壁と同じ方向に傾斜している場合は、仕上材のみの傾斜ではなく、壁枠組そのものが傾斜している可能性が高いため外壁の室内側の壁の傾斜を確認する。

１．傾斜の測定

（１）調査方法

• 傾斜が発見された外壁の室内側の壁の傾斜を測定する。
  ＜詳細は［外壁の傾斜１］に準ずる。＞

（２）注意事項等

• 特になし

• 傾斜が発見された外壁の室内側の壁に傾斜が発生していない場合または軽微な傾斜しか発生していない場合は、外壁仕上材等の施工精度の不良等に起因する可能性がある。
• 外壁の室内側の壁に外壁と同じ方向に傾斜が発生している場合は、基礎の沈下又は壁枠組に起因する可能性がある。

• 下げ振り（垂球）　下げ振り（ダイヤル表示・デジタル表示）
• レーザーレベルまたはレーザープレーナー
• スケール

• 基礎の沈下により建物全体が傾いている場合には、壁の傾斜とともに、床にも傾斜が発生している可能性が高いため、床の傾斜の有無、その程度、方向を確認する。

１．床の傾斜の確認

（１）調査方法

• 床の傾斜を勾配計等を用いて測定する。
  ＜詳細は［床の傾斜１］に準ずる。＞

（２）注意事項等

• 外壁の傾斜が生じている居室の床で測定する。

２．基礎の沈下の確認

（１）調査方法

• 基礎の沈下の有無を確認し、確認された外壁の傾斜方向に建物全体が傾いているかを確認する。
  ＜詳細は［基礎の沈下１ ］に準ずる。＞

（２）注意事項等

• 必要に応じ［基礎のひび割れ・欠損１］に準じて、基礎のひび割れ等の有無も確認する。

• ［外壁の傾斜１－１］および［外壁の傾斜１－２］の調査結果も参照して、床の傾斜や基礎の沈下の状況が同一方向、同程度であり、建物が傾斜していることが推定される場合は、外壁の傾斜は基礎の沈下に起因して発生した可能性が高い。

• 壁枠組が適切に設計されているかを確認する。

１．壁枠組の設計内容の確認

①

壁枠組の断面寸法等（ａ．ｂ．ｄ．ｆ．ｇ．☆１．☆２．※１．※２）

②

材料の選択（ａ．ｃ．ｄ．ｅ．ｇ．ｈ．☆２）

③

壁枠組の配置・支持間隔（ａ．ｂ．ｄ．ｆ．ｇ．☆１．※１．※２）

④

壁枠組の架構・接合方法（ａ．ｄ．ｇ．）

⑤

耐力壁量・配置（ａ．ｄ．ｇ．☆１．※１）

⑥

水平構面の剛性確保の仕様（ａ．ｄ．ｇ．☆１．※１．※２）

（１）調査方法

• 当該住宅の設計図書（設計図、仕様書等）を対象として、上記＜確認のポイント＞に沿って、構造部の各部材の断面寸法・配置等が適切であるかを確認する。なお、適切であるかの検討にあたっては、関係法令告示、建設住宅性能評価関連図書により、また(独)住宅金融支援機構編集「枠組壁工法住宅工事仕様書」、(一社)日本ツーバイフォー建築協会「2018年枠組壁工法建築物設計の手引き」その他の仕様書、基準等が参考となる。
• ＜確認のポイント＞に沿って確認する主な項目を以下に列記する。

  ①

  壁枠組の断面寸法等

  • たて枠、上下枠、まぐさ等（ａ．ｂ．ｄ．ｆ．ｇ．☆１．☆２．※１．※２）

  ②

  材料の選択

  • 耐久性、木材の品質（ａ．ｄ．ｇ．☆２）
  • 材料の基準強度（構造計算時）（ｃ．ｅ．ｈ．）
  • 防腐措置（☆２）
  • 浴室・脱衣室の壁枠組の防水措置（☆２）
  • 外壁の壁枠組の防腐防蟻措置（☆２）

  ③

  壁枠組の配置・支持間隔

  • たて枠等の間隔等（ａ．ｂ．ｄ．ｆ．ｇ．☆１．※１．※２）

  ④

  壁枠組の架構・接合方法

  • たて枠の欠込み位置（ａ．ｄ．ｇ．）
  • 基礎と土台の緊結方法（ａ．ｄ）
  • 土台の継手位置（ａ．ｄ）

  ⑤

  耐力壁量・配置

  • 耐力壁による必要壁量の確保（ａ．ｄ．ｇ．☆1．※1）
  • 耐力壁のバランスの良い配置（ａ．ｄ．ｇ．）

  ⑥

  水平構面の剛性確保の仕様（ａ．ｄ．ｇ．☆１．※１．※２）

（２）注意事項等

• ３階建等の場合には壁量計算ではなく、建基法令第82条の許容応力度等計算が必要である。
• 「枠組壁工法住宅工事仕様書」（(独)住宅金融支援機構編集）の「15.5壁枠組」を配慮する。（参考２）
• 壁枠組は多くの部材で構成されており、構造安全性については必要に応じ専門家の助言を得て確認する。

a.

建基法令第80条の2第1号

b.

建基法令第82条4号

c.

建基法令第89条

d.

平13国交告第1540号｢枠組壁工法又は木質プレハブ工法～｣

e.

平12建告第1452号「木材の基準強度～」

f.

平12建告第1459号「建築物の使用上の支障が起こらないこと～」

g.

平13国交告第1541号｢構造耐力上主要な部分である壁および床版に、枠組壁工法～｣

h.

平13国交告第1024号「特殊な許容応力度及び特殊な材料強度を定める件」

☆1

平13国交告第1347号｢評価方法基準｣第5の1｢構造の安定～｣

☆2

平13国交告第1347号｢評価方法基準｣第5の3｢劣化の軽減～｣

※1

「ツーバイフォー住宅の住宅性能表示制度・長期優良住宅認定制度利用の手引」（2015）(一 社)日本ツーバイフォー建築協会発行）

※2

「2002年枠組壁工法建築物スパン表」（枠組壁工法建築物スパン表編集委員会編集・(社)日本ツーバイフォー建築協会発行）

• 「枠組壁工法住宅工事仕様書　2021年版」p242(15.5) （(独)住宅金融支援機構編著、(株)井上書院発行）

• 「2018年枠組壁工法建築物設計の手引き」（(一社)日本ツーバイフォー建築協会編著、丸善出版(株)発行）

• 次のいずれかの事項について、適切な設計が行われていない場合は、水平力に対して壁の耐力が十分得られないことが原因で外壁の傾斜が発生している可能性が高い。

  ①

  壁枠組の断面寸法等

  ②

  材料の選択

  ③

  壁枠組の配置・支持間隔

  ④

  壁枠組の架構・接合方法

  ⑤

  耐力壁量・配置

• ｢⑥水平構面の剛性確保の仕様｣について、適切な設計が行われていない場合は、水平構面が柔らかく、一部の耐力壁に外力が集中することが原因で外壁の傾斜が発生している可能性が高い。

• 特になし

• 壁枠組が適切に施工されているかを確認する。

• 次のいずれかの事項について、設計どおりの施工が行われていない場合または不適切な施工が行われている場合は、水平力に対して壁の耐力が十分得られないことが原因で外壁の傾斜が発生している可能性が高い。

  ①

  壁枠組の断面寸法等

  ②

  材料の選択

  ③

  材料の品質

  ④

  壁枠組の配置・支持間隔

  ⑤

  壁枠組の架構・接合方法

  ⑥

  耐力壁量・配置

• ｢⑦水平構面の剛性確保の仕様｣について、設計どおりの施工が行われていない場合または不適切な施工が行われている場合は、水平構面が柔らかく、一部の耐力壁に外力が集中することが原因で、外壁の傾斜が発生している可能性が高い。
• 「⑧壁の建て入れ」について、施工時に外壁の傾斜が発生している可能性が高い。

• スケール
• ノギス

• 仕上材等が適切に施工されているか等を確認する。

• 次のいずれかの事項について、設計どおりの施工が行われていない場合または不適切な施工が行われている場合は、仕上材等の施工等不良が原因である可能性が高い。

  ①

  仕上材等の選択

  ②

  仕上材等の品質

  ③

  仕上材等の施工（取付け）

• 「④壁内断熱材等の施工」において、断熱材および防湿層（透湿抵抗の高い一部のプラスチック系断熱材を除く）が適切な位置に設置されていない場合は、壁内に結露が発生して軸組材が腐朽し、所定の木材の構造耐力を発揮できていないことによる外壁の傾斜の可能性が考えられる。（参考９，参考１０）

• 「住宅の平成25年省エネルギーの解説」ｐ329～331（（一財）建築環境・省エネルギー機構発行）

• 「建築工事標準仕様書・同解説　JASS24 断熱工事(2013)」p113～121「5.2工法一般」（（一社）日本建築学会編集・発行）

• 外壁断熱工法における外装支持耐力特性に関する研究　(社)日本建築学会北海道支部研究報告集No.81(2008年6月)

• スケール