補修方法編

床の傾斜 柱による梁の補強 F-1-101
木軸
工事概要

たわみの発生した梁をジャッキアップしてたわみを補正した上で、梁の下に補強するための柱(以下、補強柱と記す。)を増設し、鉛直荷重を分散させてたわみの再発生を防止する。


仮柱のジャッキの設置(chord作成)
対応する不具合と原因 不具合
  • 床の傾斜(F-1)
  • 床のたわみ(F-2)
  • 床鳴り(F-3)
  • 外壁の傾斜(G-1)
  • 外壁のひび割れ、欠損(G-2)
  • 内壁の傾斜(N-1)
  • 勾配屋根の変形(はがれ、ずれ、浮き)(R-1)
  • 床振動(V-1)
  • 水平振動(V-2)
原因
  • 床組構成部材の断面寸法等の不足、配置・間隔の不良、材料の品質不良
  • 軸組の断面寸法等の不足、材料の品質不良
  • 小屋組材の断面寸法等の不良、配置・支持間隔の不良、材料の品質不良
適用条件
  • 1階の場合:補強柱の増設位置に基礎および土台があり、かつ、平面計画上柱を増設しても支障がない(例:柱が内壁の内側に納められる等)場合に限る。
  • 2階の場合:補強柱の増設位置の2階梁にたわみの恐れがなく、かつ平面計画上柱を増設しても支障がない場合に限られる。
  • 外壁・内壁いずれにも適用可能である。
  • 住宅全体にひずみが発生するおそれのある場合は他の工法による。
工事手順の例
1.事前調査
現場での事前調査により、補強柱を受ける横架材(たわみの発生した梁および、土台(1階の場合)または下階の梁(2階の場合))が構造耐力上安全であることを確認する。
2.足場の設置
補修するたわんだ梁の直下の周囲に足場を設置する。補強柱の下端を土台または下階の梁に載せるために、床を撤去する際、足場の設置位置が障害にならないように注意する。
足場で床仕上げを傷つけないよう、シート、コンパネ等による保護、養生を行う。
3.仕上材等の撤去・処分 以下の部位を取り外し、たわんだ梁を露出させる。
たわみの発生した梁周辺の天井の仕上げ、下地材等
油圧ジャッキを据え付ける土台または下階の梁回りの床仕上材、下地材等
たわみの発生した梁の上下階でこの梁に接する建具および建具枠
梁のたわみの影響を受けて傷んだ内壁の仕上材、下地材等
梁のたわみの影響を受け傷んだ上階床の仕上材、下地材、根太等
4.仮柱と油圧ジャッキの設置

仮柱の設置
(1階の場合)(chord作成)

補強柱を設置する箇所の近傍の土台または下階の梁に小型の手動油圧ジャッキを設置し、ジャッキ上部と梁の間に仮柱を設置する。
2階の場合は、ジャッキ及び仮柱を設置する位置に、角材、H形鋼、コンパネ等を用いて、床組に力が伝わるよう適切な措置を講じる。
ジャッキの転倒に充分注意する。
受ける梁等の仕口を確認する。
5.ジャッキアップ たわんだ梁を仮受けするために以下の手順でジャッキアップを行う。
仮柱の座屈及びジャッキの転倒防止のために下げ振りなどを用いて鉛直確認をする。
建物の構造体および仕上面にゆがみが生じないように梁の直上階の床面を確認しながら5mm程度ずつ、上階の床が水平になるまで徐々にジャッキアップする。上階の床で水準器を用いて、梁が水平になり、たわみが補正されたことを確認する。
6.補強柱の設置

新しい柱の設置
(1階の場合)(chord作成)

以下のような方法で補強柱を設置する。
土台または下階の梁と水平に修正された梁との間(横架材間)の寸法を正確に計測する。
寸法に合わせて柱を加工する。補強柱の仕口は、設置後の圧縮等による垂直荷重による沈みを考慮し、加工する。
土台にほぞ穴を彫り、補強柱(上端部の仕口は欠き込みなし)を土台のほぞ穴に差し込みながら垂直に立てる。下げ振り等を利用して柱が垂直に設置された事を確認し、土台と梁に緊結する。(*1)
緊結部分(土台、梁それぞれの緊結部分)は山形プレート等の金物で補強する。
7.仮柱及びジャッキの撤去

仮柱の設置撤去
(1階の場合)(chord作成)

以下の手順で仮柱を撤去する。
再度たわみや変形がないことを確認しながら、徐々にジャッキをおろし、仮柱およびジャッキを撤去する。
仮柱を取り外しながら上階の床が水平であるかどうか水準器を用いて確認する。
8.仕上材および下地材の施工
撤去した天井、床および内壁の下地材を直し、建具枠を取り付ける。
①の仕上材を施工する。
足場は適宜撤去する。
9.建具の取り付け
取り外した建具を取り付け直す。既存の建具にゆがみ等がある場合は調整し、調整の限界を超えるものは交換して取り付ける。
10.最終確認
水準器を用いて、床仕上面の水平を確認する。
工事全体の仕上がりを確認する。
足場などを撤去のうえ、片付け・清掃を行う。
備考
(*1):筋かいとの取り合い等も考慮し、柱のほぞの代わりに接合金物を用いて柱を土台に固定する。なお、ドリフトピン等の径が大きいと割裂を起しやすいので、金物を使用する場合は、構造安全性のチェックを行なうこととする。
 例1(引用:参考文献1)
 例2(chord作成)
ほぞの代わりに接合金物(鋼管タイプ)を柱の木口に差し込み、ドリフトピンを挿入して固定する。土台にはあらかじめ接合金物用の穴をあけておき、柱側の接合金物を落としこんでから、ドリフトピンを挿入して固定する。
接合金物を土台にあらかじめ固定しておき、柱脚には接合金物を差し入れるためのスリット開口を設けておく。柱を水平または鉛直方向より、土台に固定された接合金物に差し入れてから、ドリフトピンを挿入して固定する。
施工上の注意点
  • 設備(電気・給排水・ガス)が関係する場合は、別途撤去、再設置工事が発生する。
  • 設備配管(電気・給排水・ガス)が影響を受ける可能性がある場合は継手部分の確認を行う。
  • 振動に関する不具合に当該補修方法を適用する場合、「5.工事手順の例」におけるジャッキアップ工程は必要ない。
  • 補強柱と横架材が構造上主要な部分となる場合には、その接合部が建基法告示平12建告第1460号「木造の継手及び仕口の構造方法を定める件」に適合していること。
  • 建設住宅性能評価書を交付された住宅で該当する等級が2以上のものでは、補強された梁は、原則として品確法告示平13第1347号第5の1「構造の安定に関すること」の基準を満たすこと。
  • 補強柱設置の際、土台、梁等に腐朽・蟻害が認められる場合は、腐朽・蟻害の原因と範囲を確定し、腐朽・蟻害対策措置を含めた補修が別途必要である。

参考文献

書名[該当箇所](監修) 編著者 発行所
1 新・木のデザイン図鑑(2009年6月発行)[p217] 飯島敏夫 (株)エクスナレッジ
2 木造住宅の耐震改修向上リフォーム 基礎編 平成13年(第6版)[p35] 木造住宅の耐震性向上リフォームテキスト作成委員会 (財)日本住宅リフォームセンター