補修方法編

基礎の沈下 土台をジャッキアップのうえ、基礎の再施工 K-1-101
木軸
工事概要

基礎と土台から上の上部躯体を分離し、土台の下に建物をジャッキアップする際に必要とする鋼材を渡し込み、上部躯体をジャッキアップしたうえで、既設基礎を撤去し、適切な布基礎またはべた基礎を設置した後、上部躯体を据え付け直す工法である。(参考:参考文献1、2)


根がらみ材によるジャッキアップの例
(chord作成)


爪付ジャッキによる予備ジャッキアップの例
(chord作成)
対応する不具合と原因 不具合
  • 基礎の沈下(K-1)
原因
  • 地盤条件の設定過程の不良
  • 地盤条件設定値の不適合
  • 施工方法の選択不良
  • 基礎形式選定の不適合
  • 基礎の断面寸法・配筋方法の不良
  • 基礎の配置・間隔不良
  • 敷地の安全対策の不備
  • 既存擁壁への対応不備
  • 基礎の補強筋の不良
  • 床下換気口等、開口部補強等の補強筋の不良
  • コンクリートの打込み・締固め・養生不良
適用条件
  • 専門家による地盤調査(支持力、沈下量、土質等)により、現況地盤の長期に生ずる力に対する許容応力度を確認し、再施工する基礎の構造方法が建基法告示平12建告第1347号「建築物の基礎の構造方法及び構造計算の基準を定める件」に規定する基準を満たすものであること。
  • ジャッキアップ時に必要な反力が確保できること。
  • 既設の基礎が直接基礎であること。
  • 建物の周囲に建物をジャッキアップする際に必要とする鋼材の搬出入に必要とするスペースが確保できること。(※1)
  • 補強に伴う荷重の変動を考慮した長期荷重によって既存の架構に生ずる力が長期許容応力度内に収まっていること。
工事手順の例
1.事前調査
現場調査により、適用条件を満たしていることを確認する。
沈下の状況、原因を確認し、施工計画を立て、工期を決定する。
2.仕上材等の撤去 以下の部位を撤去し、土台及び床下地盤を露出させる。
設備機器等の床下配管等の切り離し。(必要に応じ設備機器等の取外しを行う。)(※2)
内装材、外装材の必要な範囲。(ジャッキアップ等の変形を避けるため、部材撤去後の強度に留意し、必要に応じ補強を行なう。)
建物外周部の壁、および土台に接する内部の壁における仕上げ材、下地板等。(基礎に土台を固定するナットの取外し、取付けに必要な範囲)
電気配線、給排水・ガス等の設備配管の切断・先止め。
3.基礎と土台の切り離し
基礎と土台を緊結しているアンカーボルトのナットを取り外す。またはボルトの切断、定着部基礎の解体等、適切な方法を選択し、基礎と土台を切り離す。
4.予備の爪付ジャッキ等の設置(※3)
すべての床下換気口及び火打ち土台部分に爪付ジャッキを設置する。
この際、床下地盤面が水平であることを確認し、ジャッキ設置部分の地盤が沈下する可能性がある場合は、地盤の表面をランマ-等で充分締め固め、木製サンドル(50㎝程度の角材)や鉄板(3cm×45cm×45cm程度)等をジャッキの下に敷き、ジャッキ根元を安定させる。
5.鋼材設置のための予備ジャッキアップ(※3)
レベルや水盛管等を用いて建物全体が均等にあがるよう確認しながら、5㎜程度づつ順番にすべてのジャッキを調整しながら20cm程度までジャッキアップする。(ジャッキ底部分が安定しているか注意が必要。)

(chord作成)
鋼材設置のための予備ジャッキアップの例
6.鋼材の設置
建物全体に鋼材(H形鋼)もしくは鉄道用レールを基礎天端と土台の間に井桁状に挟み込む。

鋼材の設置(chord作成)
7.予備の爪付ジャッキの取外し
レベルや水盛管を用いて水平を確認しながら、建物を鋼材までおろし、爪付ジャッキを取り外す。
8.油圧ジャッキ等の設置
鋼材の中央下部に油圧ジャッキを設置する。この際、床下地盤面が水平であることを確認し、ジャッキ設置部分の地盤が沈下する可能性がある場合は、地盤を充分締め固め、木製サンドルや鉄板(3cm×45cm×45cm程度)等をジャッキの下に水平に敷き、ジャッキの安定を確保する。
9.ジャッキアップ
建物を上げることによるひずみが生じないように確認しながら、順番にすべてのジャッキを調整し、作業空間が確保できる程度まで鋼材ごと建物をジャキアップする。

ジャッキアップ部分の細部(例)(chord作成)
10.既設基礎の撤去
既設基礎を撤去し、廃材を搬出する。
11.基礎の設置
根切り、整地の上、砕石等を転圧する。
ベース部型枠組み、配筋の上コンクリートを打込む。
立上り配筋、型枠を組んだ上、コンクリートを打込み、養生する。
(注1)
アンカーボルト取付位置はコンクリートで埋まらないようあらかじめ箱抜きしておく。
(注2)
設備配管工事は基礎工事に先立って施工しておく。
型枠撤去、埋戻しを行う。
12.基礎天端の水平確認
レベルや水盛管等を用いて、基礎天端のレベルを計測し、水平であることを確認する。
13.H形鋼及びジャッキの撤去
4~9の手順を逆に進めて爪付ジャッキを再セットし、H形鋼を抜き取る。
14.土台の設置
建物の土台より上部にひずみが生じないよう5mm程度づつ順番に、爪付ジャッキを調節しながら基礎に土台を設置する。
15.箱抜き部分のコンクリートの打込み・締固め
土台ボルト穴に合わせアンカーボルトをセットし、基礎鉄筋と溶接する。
箱抜き部分のコンクリートを打込み、養生。
束石、束柱を設置する。
16.アンカーボルトによる土台の緊結
アンカーボルトにナットを取付け、十分に締め付ける。
17.仕上材及び下地材等の復旧 以下の部分を復旧する。
1階床におけるすべての床根太、下地材および仕上材。
建物外周部の壁および土台に接する内部の壁における下地板、仕上材等。
電気、給排水・ガスの配管、接続。
設備機器等の取外しを行った場合、設備機器の再取り付け。
18.最終確認
レベルや水盛管等を用いて建物全体の設置高さ、水平を再度確認する。
器材及び資材を撤去・搬出のうえ、片付け・清掃を行う。
備考
  • 工事中に仮住まいの確保が必要である。
  • 補修工事完了後においても、沈下の進行の有無を確認するなど、基礎や地盤の状況に注意する。
  • ジャッキアップに伴い、外壁等にひび割れ等が生じた場合には、併せて補修する必要がある。
  • 既設の基礎が擁壁等に近接している場合は、注意して補修すること。
  • 擁壁を併せて補修する場合には、擁壁に有害な損傷、変形及び沈下が生じないように安全性を確認すること。(建基法令第142条及び建基法告示平12建告第1449号「煙突、鉄筋コンクリート造の柱等、広告塔又は高架水槽等及び擁壁並びに乗用エレベーター又はエスカレーターの構造計算の基準を定める件」参照)
(※1)短い鋼材を現場でボルト接合し、必要な長さにし、使用することも可能である。
  • また、建設住宅性能評価書を交付された住宅で該当する等級が2以上のものでは、再施工する基礎の配筋及び各部寸法は、原則として品確法告示平13第1347号第5の1「構造の安定に関すること」の基準を満たすこと。
(※2)ユニットバスがある場合は、ジャッキアップに伴い、ユニットバスにゆがみが生じる可能性があるため注意する。
(※3)工事手順4.と5.を省略し、基礎立上がりを部分的に壊して工事手順6.からジャッキアップする方法もある。この場合の工事手順6.は次の順序となる。
根がらみ材(H鋼または鉄道用レール)を建物短辺方向に挿入するため、挿入箇所の基礎をはつる。
根がらみ材を土台下に挿入し、根がらみ材と土台をワイヤーロープ等で緊結する。
長辺方向に根がらみ材を渡し根がらみ材を井桁に組み上げる。

参考文献

書名[該当箇所](監修) 編著者 発行所
1 建築技術1995年9月号[p116~117] 間瀬哲 (株)建築技術
2 建築技術2012年2月号[p128~129] 伊奈潔 (株)建築技術