補修方法編

降雨による漏水 サッシ回りの防水テープ、防水紙の再施工/
遮音性能のある外部建具への交換
W-1-506
木軸・木枠
工事概要

外壁をはがし、サッシ回りの防水テープ及び防水紙等を再施工する。
または、外部建具の空気音遮断性能の向上を目的とする場合は、既存の外部建具を撤去し、遮音性能のある外部建具に交換する。

サイディング張りの場合(chord作成)


03_木補-軸08_W-1-506_2_図_モルタル.jpgモルタル塗りの場合(chord作成)
対応する不具合と原因 不具合
  • 降雨による漏水(W-1)
  • 外部開口部に係る遮音不良(SO-4)
原因
  • 開口部等周囲の隙間等の不良(防水テープの施工不良及び防水紙の施工不良)
  • 外部建具等の選択不良、品質・規格不適
  • 騒音源の存する方位に対する適切な外部建具選択への配慮不足 等
適用条件
  • サッシ回りの外壁仕上げを撤去し、防水下地面をあらわしとすることができること。
  • 交換するサッシがサッシ(JIS A 4706:2021)及び実験室における建築部材の空気音遮断性能の測定方法(JIS A 1416:2000)に規定された試験方法により性能が確かめられたものであること。
  • 建具を交換する場合は、建具の寸法及び種類等が既存の建具と同等であること。
  • 外部または窓の内側から作業できるスペース・足場が確保できること。
工事手順の例
1.事前調査
当事者からのヒアリングを行い、現場での原因調査を行う。
遮音性能向上を目的とする場合は、騒音の発生状況を確認すると共に、原則として外部開口部の空気音遮断性能の測定を行い、実態を把握する。
  • 測定方法は、建築物の外周壁部材及び外周壁の空気音遮断性能の測定方法(JIS A 1430:2009)に規定されている「部材法のスピーカによる方法」又は同JIS附属書に示されている「内部音源法」によるものとする。
換気設備等を介して外部開口部からの透過音以上の透過音がないことを確かめる。
2.目標性能を満たした製品の選定
事前調査で得られた結果に応じて、適用条件及び目標性能を満たすサッシを選定する。(※1)
3.サッシ回りの外壁面の撤去
必要に応じて足場を設置し、養生を行う。
サッシ枠より概ね30~40㎝程度まで仕上材をはがす。シーリング目地があれば、そのラインまでをはがす。
4-1.サッシ取り外し
周囲の透湿防水シートまたは防水紙の劣化状況を確認し、劣化している範囲およびサッシの周囲のシート等を撤去する。
サッシを損傷しないように取り外す。
4-2.面合わせ材の取り付け
(ラス下地板又は構造用面材等が下地の場合)
(ラス下地板又は構造用面材が下地の場合)
新設部材が適切に固定可能か、既存の躯体や下地の状態を確認し、状態が悪い場合は躯体や下地の補修を行う。
サッシ枠の取付けおよび防水テープを確実に張り付けるため、面合わせ材を開口部の外周に取り付ける。(参考:参考文献1)
  • 面合わせ材は、ラス下地板の場合は開口部の四周、構造用面材下地の場合は開口部の両側に取り付ける(開口部上下は、構造用面材を開口部内法まで張る。)(参考:参考文献1)

ラス下地と面合せ材(引用:参考文献3一部加筆)

ラス下地と面合せ材(平断面)(chord作成)
5.先張りシート及び入隅防水テープの施工 以下の手順で、透湿防水シートまたは防水紙を張り直す
窓台の全幅と両側の柱の高さ100㎜以上に先張り防水シートを張る。(参考:参考文献3)
柱と窓台の入隅に生じるすき間は、防水テープ等(※2)を用いて止水を行う。(参考:参考文献3)
既存と新設の透湿防水シートまたは防水紙との接合部は、十分な止水を行う。
  • 防水テープは張り直しを行った場合や、しわが生じている場合には漏水につながることがあるため新たなテープで張り直す。

03_木補_軸08_W-1-506_5_5_図上.jpg
先張りシートの施工例(引用:参考文献1)


03_木補-軸08_W-1-506_5_5_図下.jpg

注)・図はサイディング張り等で下地板や構造用面材を張らない構法
   の場合を示す。
  ・ラス直張りモルタル塗りの場合は、先張り防水シートを張る前
   に下地板を施工する。


窓台用と柱部用の先張り防水シートを用いた張付け例(引用:参考文献1)
(入隅部に伸張性のある防水テープを張る場合)
6.サッシ取り付け
  • 遮音性能向上を目的とする場合は、目標性能を満たしたサッシに交換して以下の手順で取り付ける。
サッシ下枠の水平を保ち、先張りシートを破損しないように開口部にはめ込む。
サッシ釘打ちフィンにへこみが生じないように釘打ちまたはビス留めをする。

サッシの取付例(引用:参考文献3)
  • サッシ釘打ちフィンを固定する下地は、壁下地の種類に応じて取り付けた面合わせ材の上から固定する。
  • サッシの重量により、下枠の前倒れや下がりが生じないよう留意する。(参考:参考文献1)
7.サッシ外周防水テープ張り 防水テープは、サッシ釘打ちフィンの幅全体に掛かるように、次の①・②の順に張る。(参考:参考文献1)
サッシ縦枠と面合わせ材および壁下地にかかるように両面テープ張りする。
サッシ上枠と面合わせ材および壁下地にかかるように両面テープ張りする。この際、①のテープの上まで張る。
  • 吹き上げ防止等の処置が必要な場合は、6.備考を参照する。(※3)
  • 樹脂サッシの場合は、6.備考を参照する。(※4)
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防水テープ張りの例(引用:参考文献1一部加筆)
8.防水紙張り
(参考:参考文献1)
  • 防水紙は、次の①~③の順に張る。防水テープのはく離紙は、粘着力を低下させないよう、防水紙を張る直前にはがすようにする。
サッシ下の先張り防水シートの内側に挿入して張る。
サッシの両側を下から順に横張りする。重なり代は上下90㎜以上、左右150㎜以上となるようにする。(参考:参考文献1)
サッシの上を張る。

防水紙張りの例(引用:参考文献1)
9.外壁仕上げの施工 及び四周シーリング
必要に応じて外壁下地等を補修する。
外壁の仕上げを施工する。(※5)
建具の四周をシーリングする。(※6)(※7)(※8)
  • 吹付塗装仕上げの場合には、建具の四周にシーリングを施した後に外壁を塗装で仕上げる。
10.障子の建込み、調整
障子を建込む。
建付け、戸車、引寄せピース、クレセント、タイト材等の調整を行う。
11.最終確認
工事全体の仕上がりを確認する。
片付け・清掃を行う。
遮音性能向上を目的とする場合は、原則として外部開口部の空気音遮断性能の測定を行い、発現性能の確認を行う。
シーリング材が十分に硬化したことを確認の上、外部からの散水により浸水がないことを確認する。
足場、養生等の撤去を行う。
備考 <遮音性能向上の場合>
(※1)
目標性能については、日本住宅性能表示基準 第5別表1の8の8-4透過損失等級(外壁開口部)の「(に)説明する事項」及び「(ほ)説明に用いる文字」欄が参考になる。
  • 遮音補修は、許容できる騒音の程度には個人差があることに十分に注意して行う必要がある。少しでも音が聞こえている以上、うるさいと評価される可能性を持っている。
    したがって、遮音補修によってある一定の遮音性能を確保すれば万全ということではなく、ユーザーの要求や対象空間の音環境を十分調査する必要があるとともに、補修前に居住者等に十分に説明し、現状に対する騒音の低減の程度を理解してもらうことが重要である。(参考:参考文献9)
  • 本補修方法の例のほかに、製造所のカタログ値を参考にして、窓ガラスの仕様や開閉方式等を変更する方法もある。

施工上の注意点
<漏水対策の場合及び遮音性能向上の場合>
    • 下地に面合わせ材を施工する場合は、壁面との納まり寸法等が変わるので事前に納まりを確認する必要がある。
    • 補修工事には、漏水による汚れや劣化の影響範囲の補修が別途必要となる場合がある。

      面合わせ材を使用した納まりの例(chord作成)
(※2)
外壁面、柱、サッシ窓台などが三方向から立体的に交わる部分(三面交点)はピンホールが生じやすく、雨水浸入の原因となりやすい。このような不具合を防止するため、当該部位には、伸張性のある防水テープや三次元に成形された止水部材を使用することが望ましい。(引用:参考文献1)
(※3)
工事手順例の7.サッシ外周防水テープ張りは、下枠が下屋に接近するなどサッシの設置状況により吹き上げ防止等の措置が必要な場合は、下図のようにサッシ下枠にも張ることがある。この場合は、最初に両面防水テープを下枠に張り、続けて工事手順例7の①②のテープを張る。(参考:参考文献1)


03_木補-軸08_W-1-506_6_5段落図.jpg
     サッシ下枠にも防水テープを張る場合の例(引用:参考文献2一部加筆)

(※4)
「転載の承諾を得られなかった箇所に網掛けをしております。」
(※5)
サッシまわりの胴縁及び通気胴縁に、防腐処理された胴縁を使用する場合は、防腐処理に使用している薬剤が透湿防水シートの性能を低下させることがあるため、施工中は胴縁を濡らさないようにし、胴縁の施工後は速やかに外装材を施工するよう留意する。(参考:参考文献1、5)
(※6)
外壁仕上材と取り合うサッシの四周は、シーリングを施すことが一般的であるが、軒の出が大きく雨がかりになりにくい部分の湿式仕上げの場合は、シーリングを施さないことがある。(参考:参考文献2)

03_木補-軸08_W-1-506_6_※4図L.jpg03_木補-軸08_W-1-506_6_4図R.jpg
窯業系サイディングの例             ラスモルタルの例

03_木補-軸08_W-1-506_6_※4注.jpg
サッシ回りシーリング処理の例 (引用:参考文献2一部加筆)

(※7)
建具の四周にシーリングを施した場合はサッシ上部の壁内に浸入した雨水を排出するため、必要に応じて排出口(排水路)をサッシ上枠のシーリング部分に設ける。

サッシ上部シーリングの排水路の例 (引用:参考文献4)
(※8)
特に樹脂サッシの場合、窓の変色又はひび割れが生じないよう、製造所の指定する樹脂素材に適したシーリング材を使用する。
<遮音性能向上の場合>

建具の適切な施工が担保されないと、障子と枠、障子の召し合わせ部、建具枠と外装材及び窓枠材と内装材等との間にすき間が生じる。すき間の発生は、気密性即ち遮音性能の低下に繋がり、サッシ単体の有する性能が発揮されなくなるため、以下の点に注意して施工する。
  • サッシの取り付け時において、サッシ枠と柱やまぐさとの間に適切な厚さのスペーサーを挿入し、サッシ枠の倒れ、たわみ、ゆがみ等が生じないようにする。(参考:参考文献8)
  • サッシを取り付ける場合は、窓まぐさ、窓台、方立等に、ブチルシート又は発泡塩化ビニルシート等をクッションにしてすき間のないようにビス又はくぎにより取り付ける。(参考:参考文献6)
  • サッシ枠と外装材及び窓枠材と内装材との取合い部分に隙間が生じないように、サッシ枠四周に確実なシーリングや遮音シート等を施し、気密性の確保に努める。
  • サッシと外壁とのすき間は必ずシーリング材を施す。(参考:参考文献9)
  • 複層ガラスのサッシを採用する場合、固有振動数が同一となる同じ厚さのガラスを用いるとコインシデンス効果の影響が大きくなり遮音性能の低減する場合があるためので、ガラス厚さの選択には十分注意すること。
  • 特に木造住宅においては、サッシ枠の剛性や音響的挙動がサッシ性能を測定した実験室のものと異なる可能性があるため、注意が必要である。(参考:参考文献7)

参考文献

書名[該当箇所](監修) 編著者 発行所
1 木造住宅工事仕様書 2021年版[p163,p200~209(11.1),p207参考図11.1.4-1p208参考図11.1.4-2p209参考図11.1.5-1①②③] (独)住宅金融支援機構 (株)井上書院
2 まもりすまい保険設計施工基準・同解説(2019年版)(第2版)[p54(参考図9-2一部加筆)p56(参考図9-5)] 住宅瑕疵担保責任保険法人住宅保証機構(株) 住宅瑕疵担保責任保険法人住宅保証機構(株)
3 サッシまわりの雨水浸入防止対策(木造住宅用)[p60,p64] (社)日本サッシ協会 (社)日本サッシ協会
4 窯業系サイディングと標準施工(第4版)[p31] (一社)日本窯業外装材協会 (一社)日本窯業外装材協会
5 JIS A6111:2016透湿防水シート[p解5~6(解説7)] 揖斐敏夫 (一財)日本規格協会
6 住宅防音工事仕方書 令和4年4月[p29] 防衛省地方協力局 防衛省HP
7 音響技術 No.105[p3] (一社)日本音響材料協会 (一社)日本音響材料協会
8 音響技術 No.86[p7] (一社)日本音響材料協会 (一社)日本音響材料協会
9 部位別・図解 木造住宅の防音リフォームマニュアル [p21,140 7.3] (財)日本住宅リフォームセンター(現・(公財)住宅リフォーム・紛争処理支援センター) (株)彰国社
10 木造住宅外皮の防水設計・施工指針および防水設計・施工要領(案)[p47,284] (一社)日本建築学会 (一社)日本建築学会