補修方法編

床のたわみ スラブ下面への鉄骨小梁の増設 F-2-401
S造
工事概要
  • スラブ下面に鉄骨梁を架け渡し、鉄骨梁とスラブ下面の間に無収縮モルタルを充填する。(参考:参考文献1)

09_S補-02_F-2-401_2_図.jpg概念図(chord作成)
対応する不具合と原因 不具合
  • 床の傾斜(F-1)
  • 床のたわみ(F-2)
  • 床振動(V-1)
原因
  • 骨組や床構成部材等の配置・間隔の不良
  • 工事中の一時的な過荷重の積載
  • 床スラブの鉛直支持力の不足
適用条件
  • 構造計算等により、既設の鉄骨大梁が増設小梁からの荷重負担に耐えられることを確認した場合に適用する。
  • 補修により、美観・機能上の問題を生じないことを確認した場合に限り適用可能である。
工事手順の例
1.事前調査
構造計算等により、増設する小梁の断面寸法などを決定する。
現場調査において、適用条件を満たしていること、また工事の妨げになるものがないことを確認する。
各通り毎に床等の変形を測定し、小梁を増設する位置等を確認し、工事計画を立てる。
2.足場設置・仕上材等の撤去
小梁を増設する直下の周囲に足場を設置する。また、必要に応じて、パイプサポートを床下に設置する。
足場等の設置により床仕上げ(フローリング等)を傷つけないよう、シート及びコンパネ等による保護・養生を行う。
以下の部位を撤去し、小梁を設置する大梁及び床版下面を露出させる。
  • 小梁を設置する大梁下部の壁下地材、仕上材
  • 小梁を増設する天井の下地、仕上材
  • パイプサポートを据え付ける床・天井まわりの下地材・仕上材
  • 床の変形の程度に応じ、影響を受け傷んだ当該階及び上階床、壁の下地材、仕上材等
3.部材の実測と接合位置の確認
増設する小梁の部材の長さを実測し、接合位置を確認する。
高力ボルト取付用の孔あけ、増設小梁と現場溶接するガセットプレート等の加工を鉄骨製作工場で行う。
高力ボルト取付用の孔あけを、現場加工する場合もある。
4.ガセットプレートの取付け溶接
ガセットプレート及び大梁の溶接部まわりの塗装、じんあい、油、さび等を完全に除去する。
ガセットプレート部分を罫書く。鉄骨小梁の設置位置は、スラブの現状下端レベルに合わせる。
溶接の火の粉で火災が起きないように周囲を囲い、ガセットプレートを現場溶接(すみ肉溶接)により取り付ける。
溶接部の外観検査及び非破壊検査を行う。
09_S補-02_F-2-401_5_4_図.jpg ガセットプレートの取付け溶接の例(chord作成)
5.鉄骨小梁の設置
小梁をガセットプレートに架け渡し、高力ボルトで仮止めする。
高力ボルトは、ボルトにマーキングを行った後に、本締めする。
高力ボルト締付け後の検査を行う。
増設小梁が長く、現場へ分割して搬入する場合は、高力ボルトまたは現場溶接(突合せ溶接)等で接続し、設置する。
突合せ溶接部は、必要に応じて溶接終了後、常温まで冷めたことを確認して、超音波深傷試験を行う。(参考:参考文献2、参考文献3)
6.無収縮モルタルの充填と養生
H形鋼上部とスラブ下端のすき間(20~30㎜程度)に無収縮モルタルを充填する。
充填7日後に硬化を確認する。

09_S補-02_F-2-401_5_6_図.jpg 無収縮モルタル充填の例(chord作成)
7.パイプサポートの取外し
上階の床や梁に異常がないことを確認した上で、パイプサポートを取り外す。
8.スラブ補修
スラブにひび割れが確認される場合には、樹脂注入工法等で補修する。
9.下地材・仕上材の修復
撤去した上階の内壁及び上階床について下地材、仕上材を張り替える。撤去した建具を取り付ける。既存の建具にゆがみ等がある場合は調整し、変形してもどらないものについては交換する。
撤去した下階天井の下地材、仕上材を張り替える。撤去した下階床及び壁について下地材、仕上材を張り替える。梁の補強により建具等の変更がある場合は、それに応じて新規の建具枠を取り付ける。既存の建具にゆがみ等がある場合は調整し、変形してもどらないものについては交換して取り付ける。
10.最終確認
水準器を用いて床仕上げ面の水平を確認する。
足場等を撤去のうえ、片付け・清掃を行う。
備考
  • 大梁と小梁の接合部のディテール(ガセットプレートの形状及び厚さ、高力ボルトのサイズ及び本数)については、大梁に力が伝わるよう、十分に検討する。
  • 増設梁の上のスラブにひび割れが生じやすいこと、増設梁の全体で荷重を受けるようにすること、増設梁の出し入れに手間を要することなどの点に留意する必要がある。
  • 耐火被覆がある場合には、その撤去、復旧工事が発生する。
  • 鉄骨工事を伴う補修工事は上向き溶接等高度な技術を要求されるものも含まれるため、①鉄骨施工業者及び管理組織、②工事手順、③溶接技能者の資格、④溶接施工管理技術者及び非破壊試験検査技術者の資格等必要事項を記載した施工計画書又は施工要領書を施工者より提出を受け、事前に工事の内容を確認することが重要である。
  • 床ブレースが存在する場合は増設梁との納まりや配置に注意する。
  • 床のたわみ修正必要な場合には、セルフレベリング材によるデッキプレート床の補修(S造F-2-403)による。

参考文献

書名[該当箇所](監修) 編著者 発行所
1 建築技術1990年3月号[p150~154] 小柳光生 (株)建築技術
2 (一社)日本溶接協会 溶接情報センターホームページ 接合・溶接技術Q&A1000 (一社)日本溶接協会 溶接情報センター ホームページ
3 鉄骨工事技術指針・工事製作編[p658] (一社)日本建築学会 (一社)日本建築学会