補修方法編

降雨による漏水 曲面屋根の横ぶきを立て平ぶきにふき替え W-1-603
木軸・木枠・S造
工事概要

曲面屋根の棟付近において適切な屋根勾配が確保できない屋根形状に対し、適合する屋根工法にふき替える(参考:参考文献1)。(*1)


補修前の外観の例(chord資料)

補修前の天井裏見上げの例(chord資料)

補修後の外観の例(chord資料)
対応する不具合と原因 不具合
  • 降雨による漏水(W-1)
原因
  • 屋根工法・材料の選択不良
適用条件
  • 曲面屋根の曲げ半径が選択する屋根工法の範囲内である場合に適用可能である。
  • ふき材等は建基法告示昭46建告第109号(最終改正R2.12.7)「屋根ふき材、外装材及び屋外に面する帳壁の構造方法を定める件」第1の二号に規定する構造方法に適合すること。
工事手順の例
1.事前調査
現場調査により適用条件を満たしていることを確認する。
該当する屋根が他の屋根面と取り合うなど、屋根取り合い部の状況等についても確認し、工事計画を立てる。
  • 必要に応じて足場を設置して高所の確認を行う。
2.足場の設置
該当部分に足場を設置し、撤去時 発生する粉塵等が隣地に拡散しないようにその外回りに防塵シートを張る。
3.屋根ふき材、下ぶき材の撤去
雨どいを取り外す。
屋根ふき材と下ぶき材を撤去する。
  • 該当する屋根が他の屋根面と取り合う場合は、残す部分の屋根材や下ぶき材の残し方に注意しながら、当該屋根ふき材および下ぶき材をていねいに剥がす。
ねじの引き抜き耐力がある野地板の場合は5へ
4.野地板の張り替え(既存がねじの引き抜き耐力のない野地板の場合)
既存の野地板がねじの引き抜き耐力を期待できない場合は、引き抜き耐力を期待できる野地板に張り替える。

ねじの引き抜き耐力の例(引用:参考文献2一部加筆)
5.下ぶき材の張り直し
アスファルトルーフィング類の下ぶき材は、軒先と平行に敷き込み、軒先から上へ向かって張る。上下(流れ方向)100mm以上、左右(長手方向)200mm以上重合わせ(参考:参考文献3)、重合わせ部分は間隔300mm内外に、その他は要所をステープル(足長さ16mm程度)等による留め付け(参考:参考文献3)とし、しわ、緩み等のないように張り上げる。ただし、留め付け箇所は重ね合わせ部とし、むやみにステープル等を打たない。
曲面屋根頂部は、頂部より両方向へそれぞれ250㎜以上重ね合わせ、棟頂部から左右へ一枚ものを増張りする。(参考:参考文献3)
谷部は、谷底から左右へ一枚ものを先張りし、その上に下ぶき材を左右に重ねて、谷底から250㎜以上のばす。(参考:参考文献3)
壁面立上げ部の高さは、250㎜以上かつ雨押さえ上端より50㎜以上とする。(参考:参考文献3)
  • 下ぶき材の張直しで外壁等に取り合う箇所は、必要に応じて外壁の解体、復旧をする。
6.屋根材ぶき
一般部のふき方は次による。(参考:参考文献4)
  • 立て平ぶきには、はぜが組み込まれた溝板と吊り子で構成されたセパレートタイプと溝板端部に吊り子機能を持たせた吊り子一体タイプやはぜ組みをかん合式にしたかん合タイプがある。
    各タイプに応じた屋根ふき方法があるため、製造業者の定める仕様に従う。
  • 「転載の承諾を得られなかった箇所に網掛けをしております。」
  • 「転載の承諾を得られなかった箇所に網掛けをしております。」


立て平ぶきおよびあり掛けぶきの標準構法(引用:参考文献5一部加筆)

けらばは木造(共通)W-1-501(けらば水切の再施工)、軒先は木造(共通)W-1-502(軒先水切・軒どいの再施工)、谷部は木造(共通)W-1-504(下ぶき材(二重張り)と谷板の再施工)に準じて立て平ぶきで納める。
水上部分の壁との取り合い部および流れ方向に平行な壁との取り合い部は、木造(共通)W-1-509(下ぶき材、雨押え包み板の再施工)に準じて立はぜぶきで納める。
7.雨どいの取付け直し
雨どいを付け直す。
8.最終確認
工事全体の仕上がりを確認する。
  • 屋根ふき材の不陸、浮き等がないことを確認する。
降雨時に浸水がないことを確認する。
  • 止水を確認するまで仮設は撤去しないことが望ましい。
足場の撤去、片付け・清掃を行う。
備考
  • 本補修方法のほかに、横ぶきの適切な勾配に満たない曲面屋根の頂部付近のみを立て平ぶき等の縦ぶきにふき替える方法もある。また、横ぶきの屋根工法を変えずに補修する場合には下ぶき材やそのふき方などに一段の配慮が必要である。
*1 ここでの事例は立て平ぶきおよびあり掛ぶきの場合を示している。他の屋根構法を採用する場合は、次表(金属板ぶきの勾配・規模・曲げ半径)の勾配、アーチ状屋根の曲げ半径等の値を参考にすることができる。なお、曲面屋根の頂部は勾配が0/100であるため、頂部では屋根ふき材を継がず、頂部から左右に一定範囲を一枚もののふき材で葺くことが前提条件となる。

金属板ぶきの勾配・規模・曲げ半径(引用:参考文献1)

施工上の注意点
  • 建物の構造計算をする場合、屋根ふき材に関しては平12建告第1458号「屋根ふき材及び屋外に面する帳壁の風圧に対する構造耐力上の安全性を確かめるための構造計算の基準を定める件」の基準に適合すること。

(たる木、野地板下地の場合)
  • 立て平ぶきおよびあり掛ぶきのたる木と直交する方向の吊り子間隔は、立て平ぶきの場合は成形された立てはぜ間隔、あり掛けぶきは成形された立てはぜと蟻はぜ間隔で固定されるため、既存のたる木に留め付けられない箇所が生じる。そのため、野地板等にねじ留めする場合、ねじの引き抜き耐力を維持するためには下表に示す突き出し(突出し)長さが必要になる。(引用:参考文献2)

03_木補-軸08_W-1-603_6_工注意2段図.jpg木造でたる木と立てはぜの位置がずれる状態を示す例(引用:参考文献2一部加筆)

ねじの突き出し(突出し)長さの必要寸法等(引用:参考文献2)

参考文献

書名[該当箇所](監修) 編著者 発行所
1 金属屋根の施工と管理 改訂4版[p132、p137表3.5.5] (社)日本金属屋根協会 (社)日本金属屋根協会
2 鋼板製屋根・外壁の設計・施工・保全の手引きMSRW2014 初版[p148図2.6.3 一部加筆 表2.6.1、p165図2.7.4](独立行政法人建築研究所) 鋼板製屋根・外壁 設計・施工・保全検討委員会 (一社)日本金属屋根協会
3 木造住宅工事仕様書 2023年版[p129、p130] (独)住宅金融支援機構 (株)井上書院
4 建築工事標準仕様書・同解説 JASS12 屋根工事 (2023)[p236、238] (一社)日本建築学会 (一社)日本建築学会
5 鋼板製屋根構法標準SSR2007 改定第2版第2刷[p116図3.3.14](独立行政法人建築研究所) 鋼板製屋根構法標準改定委員会 (社)日本金属屋根協会