補修方法編

基礎の沈下 基礎天端レベル調整 K-1-403
S造
工事概要

既設基礎から建物を分離し、建物を一旦ジャッキアップし、基礎天端のレベル調整を行った後、建物を据え付け直す工法である。


09_S補-01_K-1-403_2_図上.jpg※サンドル:角材や形鋼を井桁状に組んだもの

爪付油圧ジャッキの設置例(chord作成)


(参考)基礎フーチング天端にジャッキをセットする場合(引用:参考文献1一部加筆)

工事概要図
対応する不具合と原因 不具合
  • 基礎の沈下(K-1)
原因
  • 地盤条件の設定過程の不良
  • 地盤条件設定値の不適合
  • 施工方法の選択不良
  • 敷地の安全対策の不備
適用条件
  • 専門家による地盤調査(支持力、沈下量、土質等)により、現況地盤の長期に生ずる力に対する許容応力度を確認し、自重による沈下その他の地盤の変形等を考慮して建築物又は建築物の部分に有害な損傷、変形及び沈下が生じないことが構造計算により確かめられること。
  • 中高層建物の場合は、一般的にサンドルでの仮受けは困難となるため、低層建物に適用する。
  • ジャッキアップ時に必要な反力が確保できること。
  • 鉄骨の柱を比較的容易に基礎から切り離せる場合(例えばアンカーボルト接合の場合等)に適用する。
  • 建物の周囲に、建物をジャッキアップする際に使用する鋼材の搬出入のためのスペースが確保できること。(※1)
  • レベル調整によって柱脚周辺の応力状態が変わる可能性があり、レベル調整高を反映した計算によって基礎ばりを含めて安全であることの確認を行い、必要に応じ配筋を補強する。
  • 既設擁壁がある場合は、擁壁が健全であることを確かめる。
  • 基礎天端調整により、アンカーボルトの余長が確保できない場合は適用不可。
工事手順の例
1.事前調査
現場調査により、適用条件を満たしていることを確認する。
沈下の状況、原因を確認し、施工計画をたて、工期を決定する。
2.仕上材等の取外し 以下の部位を取り外し、柱脚及び床下地盤を露出させる。
設備機器等の床下配管等の切り離し。(必要に応じ設備機器等の取外しを行う。)(※2)
1階床における全ての仕上材、下地材等の撤去。
建物外周部の壁、内壁の仕上材、下地材(仮設ブラケットの施工にかかわる部分)等の撤去。
給排水・ガス等の設備配管の切断、先止め。
3.基礎と柱脚の切り離し
基礎と柱脚を緊結しているすべてのアンカーボルトのナットを取り外す。
4.鋼材の取付け
各鉄骨柱の根元付近に仮設ブラケットを取り付ける。
ブラケットの下に根がらみ用鋼材を設置し、柱脚をつなぐ形で井桁状に根がらみを設ける。
(柱脚部に鉄骨梁を溶接し、根がらみとする場合もある)

09_S補-01_K-1-403_2_図上.jpg爪付油圧ジャッキで鉄骨柱を持ち上げる状況(chord作成)
5.油圧ジャッキ等の設置
鋼材の要所に爪付油圧ジャッキを設置する。
この際、床下地盤面が水平であることを確認し、ジャッキ設置部分の地盤の表面をランマー等で充分締め固め、鋼製サンドルや木製サンドル(50㎝程度の角材)、鉄板(3㎝×45㎝×45㎝程度)等をジャッキの下に敷き、ジャッキの根元を安定させる。
長期間仮受け状態が続く際は,仮受け時において地震時の安全性の検討が必要である。
6.建物のジャッキアップ
建物を上げることによりひずみが生じないように確認しながら、5㎜程度づつ順番にすべてのジャッキアップ量を調整し、10㎝程度まで建物をジャッキアップする。
7.基礎天端レベルの調整
コンクリートとレベル調整用モルタルの密着性を向上させるため、基礎天端のコンクリートをはつり、基礎天端表面に付着している破片等の除去作業を行う。
柱ベースプレート等を緊結するすべての基礎天端の両側に、幅10cm程度の木板(貫板)を型枠として、接着剤(木工用ボンド)もしくは釘で基礎立ち上がり部分に接着させる。
基準点のレベルを基礎天端において水盛管等で計測し、沈下の少ない基礎天端を基準にレベル調整用モルタル(無収縮モルタル)を打込む。
レベル調整用モルタルを打込み後養生を7日程行い、必要な強度がでていることを確認して木板を外す。
8.基礎天端の水平確認
レベルや水盛管等を用いて基礎天端のレベルを計測し、水平であることを確認する。
9.柱脚の設置及び基礎との接合
建物上部躯体にひずみが生じないよう5mm程度づつ順番に、ジャッキを下げながら基礎に柱脚を再設置する。アンカーボルトの位置と柱ベースプレートのボルト孔の位置を確認する。
アンカーボルトにナットを取付け、十分に締め付け鉄骨柱を基礎に固定する。
10.鋼材及びジャッキの撤去
鋼材及び仮設ブラケット、ジャッキ、サンドル等を撤去する。
11.仕上材、下地材等の復旧 以下の部分を復旧する。
1階床におけるすべての床根太、下地材及び仕上材。
鋼材を取り付けた内・外壁の範囲における下地材、仕上材。
既設給排水管・ガス管との再接続。
設備機器等の取外しを行った場合、設備機器の再取り付け。
12.最終確認
レベルや水盛管等を用いて建物全体の設置高さ、水平を再度確認する。
器材及び資材を撤去・搬出のうえ、片付け・清掃を行う。
備考
  • 補修工事完了後においても、沈下の進行の有無を確認するなど、基礎や地盤の状況に注意する。
  • ジャッキアップに伴い、外壁等にひび割れ等が生じた場合には、併せて補修する必要がある。
  • 軽量鉄骨造の場合は、重量鉄骨造と比較して板厚が薄い等、局部変形しやすいため、ジャッキアップ時の支点位置や補強材の配置、水平に上げるためのジャッキアップ手順等に、また、ブラケットの取り付けでは、母材の板厚が薄い場合は溶接が難しいので注意が必要である。
  • 工事中の仮住まいの確保が必要である。
(※1)短い鋼材を現場でボルト接合し、必要な長さにし、使用することも可能である。
(※2)ユニットバスがある場合は、ジャッキアップに伴い、ユニットバスにゆがみが
生じる可能性があるため注意する。

参考文献

書名[該当箇所](監修) 編著者 発行所
1 建築技術1995年9月号[p70~71] 井上波彦・田村昌仁・窪田博年 (株)建築技術