補修方法編

床のたわみ スラブ下面への連続繊維シート接着 F-2-303
RC造
工事概要
  • スラブ下面中央部に連続繊維シートを張付け、スラブの靭性を高める工法である。本工法単独では、たわみ補修の効果が少ない。(本項では炭素繊維シートの接着による方法を示す。)
  • 床のたわみ修正が必要な場合には、セルフレベリング材による床の補修(RC造F-2-305)による。
06_RC補-02_F-2-303_2_図.jpg

工事概要図(引用:参考文献1)
対応する不具合と原因 不具合
  • 床の傾斜(F-1)
  • 床のたわみ(F-2)
  • 床振動(V-1)
原因
  • スラブの配筋方法の不良(配筋位置のずれ等)
  • コンクリートの打込み・締固めの不良、養生の不良
  • 工事中の一時的な過荷重の積載
適用条件
  • 補修工事に伴う荷重の変動を考慮した長期荷重によって既存の全ての架構に生ずる力が長期許容応力度内に収まっており、原則として躯体コンクリートに不良箇所がない場合に適用が可能である。
  • 構造強度上は問題がなく、たわみ、ひび割れに対して、付加的な補強に適用する。
  • スラブ下面の形状が複雑な場合にも適用可能な工法である。
  • 一般に連続繊維シートは軽量で現場切断が容易なため、狭いスペースでの施工が要求される場合にも適用できる。
  • 補修工事に伴う固定荷重の増大が許容されない場合でも適用できる。
工事手順の例
1.事前調査
現場調査により適用条件を満たしていることを確認する。
たわみの状況、原因を確認し、施工計画をたて、工期を決定する。
2.内装仕上材等の撤去
当該住戸の(たわんだスラブの補修範囲の)下階住戸の壁、天井仕上材を撤去し、内装部分に対する養生を行う。
3.準備
器材・資材搬入、仮設電源を準備する。
足場を設置する。
躯体の実測と墨出しをする。
4.スラブ下面の下地調整
モルタル等仕上げをはつり、サンダー等により凹凸をなくす。
プライマーをスラブの見上げ面に塗布する。
炭素繊維シートを密着して張るため、不陸部を不陸補修用樹脂で平滑にする。
5.炭素繊維シートの張付け
含浸接着エポキシ樹脂(※)を浸透させながら、炭素繊維シートを2方向に張っていく。炭素繊維シートの端部は、接着剤でとめる。
6.耐火被覆施工
含浸接着エポキシ樹脂(※)の耐火性能を確保するために不燃材で炭素繊維シートの表面を覆う。
7.内装仕上材等の復旧
床レベル補正を行ない、撤去した内装仕上材(床、壁、天井)を復旧する。
8.最終確認
工事全体の仕上がりを確認する。
足場等を撤去のうえ、片付け、清掃を行う。
備考
  • 鉄筋コンクリート構造物の補修・補強には、一般に一方向配列シートが使われている。2方向とする場合は一方向シートを直交させ重ね合わせて使用する。シート1枚の厚さは0.1~0.2mm程度でエポキシ樹脂によりコンクリート面に接着させ、コンクリートと一体化することにより効果を発揮する。そのためコンクリート表面との接着性の確保が重要である。
  • 連続繊維シート接着には、炭素繊維シートの他、アラミド繊維シート等がある。
  • 本施工に伴い下階住戸の天井回りの電気設備、給排水設備の切断、再接続工事が発生する場合がある。
  • 補修工事に先立ち、管理組合(分譲共同住宅の場合)または建物所有者(賃貸住宅の場合)を介して下階住戸居住者の承諾を得る必要があり、別途仮移転、住戸養生等が必要になる場合がある。
  • 炭素繊維、アラミド繊維その他これらに類する材料を用いて補修を行う場合は平13国交告第1024号「特殊な許容応力度及び特殊な材料強度を定める件」に適合する必要がある。
  • 炭素繊維、アラミド繊維その他これらに類する材料を用いて工事を行う場合は、強度や耐久性等の品質を確保するために、「あと施工アンカー・連続繊維補強設計・施工指針」や「建築改修工事監理指針」等、適切な指針類に基づいて管理・施工する。
(※)
「含浸接着エポキシ樹脂」は、平成27年1月20日に改正されたJIS A6024:2015(建築補修用及び建築補強用エポキシ樹脂)に新たに追加された。(参考:参考文献5)

参考文献

書名[該当箇所](監修) 編著者 発行所
1 建築技術1994年12月号[p.96~98] 浅井浩一 (株)建築技術
2 2017年改訂版 既存鉄筋コンクリート造建築物の耐震改修設計指針 同解説 - (一財)日本建築防災協会/国土交通大臣指定耐震改修支援センター
3 「あと施工アンカー・連続繊維補強設計・施工指針」 国土交通省住宅局建築指導課 国土交通省 HP
4 連続繊維補強材を用いた既存鉄筋コンクリート造及び鉄骨鉄筋コンクリート造建築物の耐震改修設計・施工指針 2010年改訂版 国土交通省住宅局建築指導課 (一財)日本建築防災協会
5 JIS A6024:2015建築補修用及び建築補強用エポキシ樹脂 揖斐敏夫 (一財)日本規格協会
6 建築改修工事監理指針 令和4年版(下巻)[8章24節連続繊維補強工事](国土交通省大臣官房官庁営繕部) (一財)建築保全センター (一財)建築保全センター
7 公共建築改修工事標準仕様書(建築工事編)令和4年版[8章24節連続繊維補強工事](国土交通省大臣官房官庁営繕部) (一財)建築保全センター (一財)建築保全センター
8 コンクリート診断技術’23 基礎編[p314] (公社)日本コンクリート工学会 (公社)日本コンクリート工学会